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『資本主義からの逃走』
   「『知延常楽』・打刃物職人の哲学にローカリズム」


   


     11月 12th, 2010  Posted 12:15 AM

ささやかな心遣いを受けながら
自宅の周辺で火事が起こっている。
消防自動車のサイレンが重なりながら聞こえる。
サイレンの音は次第に近づいて大きく聞こえる。
その時、電話がありました。
「大丈夫か?」、
「エッ、何が?」
「ラジオを聞いていたら、その辺で火事じゃないのか?」
「そうらしいけれど、大丈夫だよ」
「そうか、安心した」。
これが、越前打刃物の職人さんからの電話だった。
打刃物の職人さんは、仕事中にラジオを聞いている。
そのニュースで、自宅近くで火事があったことを知るや否や電話をしてもらった。
まだ、私は打刃物のデザインをし始めていた頃であり、
700年の伝統にデザイン導入をどうすればと懊悩としていた時期でした。
それなのに、「心配してくれている」ことを知って、
郷土に住み始めたこと事態で「都落ち」という低次元な自分に気づかされました。
職人技がたどり着く哲学
彼の父上は、工場で何かと詳細に素材のこと、炎の色、さらに越前打刃物火造り鍛造のことを、
作業をしながらひたすら私に語りかけてもらっていました。
しかし、デザインで「タケフナイフビレッジ」へと向かいだした時に亡くなってしまったのです。
彼の鍛冶場の壁に、「知延常楽」と彫り込まれていました。
私は相当の古典を調べましたがこの言葉は見つからず、父上の造語だと理解しました。
知延=鍛造で鋼を延ばしていくことを知れば知るほど、
日常の楽しみがある=常楽、という意味合いだと彼と話し合いました。
私は、生涯を打刃物職人として、
「鑓鉋(やりかんな)」という宮大工道具を伝承することができた技士、
その「日常からの知恵を蓄積していき、働きがい」への自負心・誇り・喜びという主義性が、
風土の生き様にこそ、地域主義・地方主義・ローカリズムの成立があることを教えられました。


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